立ち顕れる―生きられた世界の見取り図|Drawing the World Near in Silent Observation
2025/07/05 - 19
@東京都港区赤坂 2-23-1 アークヒルズフロントタワー 1F
GALLERY SCENA.(ギャラリー・セナ)では、7月5日(土)から7月19日(土)まで、奥山帆夏、木下理子、澤田光琉、白石効栽、竹林玲香の5名によるグループ展「立ち顕れる―生きられた世界の見取り図」を開催いたします。
会期|2025年7月5日(土)– 7月19日(土)
主催|GALLERY SCENA.
会場|東京都港区赤坂 2-23-1 アークヒルズフロントタワー 1F
オープニング・レセプション|7月5日(土) 17:00 - 19:00
開廊時間|12:00 - 19:00
休廊日|7月7日(月)・7月14日(月)
協力|タカ・イシイギャラリー
現実に触れたという実感を得にくい現代において、実存―生きてそこに在るということ―は、芸術家にとってどのように知覚されうるのでしょうか。
本展では、フランスの哲学者モーリス・メルロ=ポンティが提唱した「生きられた世界」という概念を手がかりに、作品に表れた視覚イメージそのものではなく、それがいかにして「立ち顕れて」くるのか、すなわち作家が「つくる」という行為を通してイメージを引き寄せ、定着させるプロセスに焦点を当てます。
芸術家が「つくる」ことで引き寄せるものは、必ずしも目に見えるものばかりではありません。ときにそれは、遠く離れた風景や出来事、あるいは記憶や感情といった、すでに意識の底に沈みつつあるものかもしれません。それらが、距離や隔て、投影や透過といった作用を経て、作品や空間という「場」にふたたび立ち顕れる―その過程、その瞬間に立ち会うことはできないでしょうか。
本展に参加する5名の作家は、それぞれ絵画、写真、インスタレーションといった手法を用い、記憶の中の風景や、日常に潜む微細な変化や奥行きをすくい上げながら、素材との対話を通し、作品という「場」に定着させていきます。こうして生み出された作品は、外から受け取ったイメージを投影した単なるスクリーンとしての「見取り図」ではなく、作家自身を含む、いまだ名付けえぬ事物同士の関係性の在りようを体感しようとする、芸術家たちの痕跡としての「見取り図」であると言えるのではないでしょうか。また、画布や素材は、表現の最終到達地点ではなく、同時に「開かれた場」として、鑑賞者の内面をも重ね合わせる余地を含んでいます。
鑑賞者はその傍らに立ち、声なき声に耳を澄まし、光の粒や揺らぎをたしかめるようにして、それらを受け取ることができるのです。
今ここに在るということ。そして、いまだ計り知れない世界の在りようを引き寄せ、その波打ち際に立つこと。
本展が、私たちが世界と再び出会い直すためのひとつの契機となれば幸いです。





奥山帆夏は、1996年北海道札幌市生まれ、2022年東京藝術大学大学院美術研究科修士課程修了。具体的な風景の中の抽象的なイメージを探りながら、画布上に定着させています。布が揺れ動くように曖昧な境界線を持つ画面は、奥山が生まれ育った北海道の自然をモチーフとしながら、溶け込むように重ねられた色彩やかたちにより、地と図が絡み合い、視点が迷い込むような浮遊感を与えます。光がうつろう森の中にいつのまにか迷い込んだような、内と外の境界が揺らぐような感覚は、観るものを遠い風景の記憶へと誘います。
木下理子は、1994年東京都生まれ。2019年武蔵野美術大学大学院造形研究科修士課程美術専攻油絵コース修了。サイアノタイプ(青写真)によるフォトグラムの技法を用いて、日光に当てる際に、薄紙、針金、網、紙粘土といった物を置くなどして遮光しながら、緩やかなラインや文様を藍染のようなグラデーションのある青の色面に浮き上がらせた作品を制作しています。木下にとってサイアノタイプによる作品は、宇宙と地上との計り知れない距離と時間を内包しており、作家のコントロールを超えた重力、風、湿度、日光などにより変化する青の画面は、自身の意志と作品との間に適切な距離を生じさせるものと言えます。また、身近にあるさまざまなオブジェクトの素材特性を活かして展開されるインスタレーションは、空気や光、重力など不可視の現象や、科学や数学では測りきれない世界の機微を捉える装置として、見過ごされがちな日常の断片に潜む奥行きをすくい上げ、鑑賞者に世界を〈感じる〉回路をひらきます。
澤田光琉は、1999年滋賀県生まれ。2019年東北芸術工科大学美術科洋画コース交換留学。2021年京都芸術大学美術工芸学科油画コース卒業。日常の中からモチーフを選び取り、光や影などの微細な変化を捉え対象を実体として理解しようとすることで、自身を取り巻く世界との関係性や距離を測り、隔たりを埋める手段としての絵画作品を制作しています。2020年の《Shape of Light》シリーズ以降、澤田は「光を描く」という試みにとどまらず、「イメージ—あるいは絵画そのもの—」がどのように光を反射しうるか、という問いに焦点を当てています。そのために、絵画の物質的な表面性を強調し、画面の外側へと光が跳ね返るような構造を追求するとともに、淡い色彩の層を重ねることで、光と影のバランスを探りながら、対象を物理的な存在として捉え直そうとしています。そこには、相反する力の対立ではなく、静かな均衡を求める姿勢が貫かれています。月や風景といったモチーフは、こうした継続的な探求の出発点であり、澤田の絵画における光のかたちをめぐる思索は、鑑賞者に作品や世界との対話の糸口を提示しています。
白石効栽は、1998年韓国釜山生まれ。長野県出身。2022年京都芸術大学美術工芸学科油画コース卒業。2024年京都芸術大学大学院修士課程芸術専攻油画領域修了。生まれ育った風景の記憶や自身の出自をもとに、自らの「土着性」とは何か、またそれがどのように絵画に表れるのかを問い続けています。白石にとって絵画とは、時間の中で失われてゆく存在や記憶の断片を、静かに留めようとする営みであり、儚くもたしかな光をたたえながら、遠い記憶と存在の痕跡を留める場所として、作品は鑑賞者の現前に静かに佇んでいます。
竹林玲香は、1998年大阪府生まれ。2020年京都造形芸術大学美術工芸学科油画コース卒業。2022年京都市立芸術大学大学院修士課程油画専攻修了。絶えず姿かたちを変え続ける雲の流れや、岩に砕ける水流のように、うつろいゆき終わりのない身の回りの自然がつくりだす光景や現象を観察し、それらを絵画空間にとどめようと試みています。油彩、粘土、陶器など多様な素材を用い、幾重にも重ねられた線や形、色彩といった要素が影響し合いながら関係を築くことで、画面に動きを生じさせ、単なる視覚的な効果にとどまらない物質感や質量を生み出しています。地上から見る海と、実際に泳いでいるときに感じる海の様子がまったく異なるように、竹林の作品は、表面からは見えにくい微細な変化や動きを丁寧にすくい取り、慎重に結びつけていくことで、自身を取り巻く世界のありようを感知しようとしています。そのようにして生み出された作品は、全体像を一望することの難しい世界の神秘や、連綿と続く時間の蓄積を、観る者に伝えています。
Press Release_立ち顕れる―生きられた世界の見取り図.pdf
アクセス|
赤坂アークヒルズフロントタワー1F(六本木通り沿い)
・東京メトロ 南北線・銀座線 「溜池山王駅」12番出口より徒歩3分
・東京メトロ 南北線 「六本木一丁目駅」3番出口より徒歩4分
・都バス01系統 新橋行 「赤坂アークヒルズ前」徒歩0分
連絡先|GALLERY SCENA.
展覧会担当:田中 碧
Email:info@gallery-scena.com
Artists
個展「Scope」toov cafe gallery(札幌、2024年)、個展「Scene」ヨロコビ to(東京、2023年)、「コードヤード・バイ・マリオット札幌」内装アート(札幌、2024年)ほか
個展「Map and Wind」pokettales(ソウル、2024年)、個展「TYPO/PLATE」東塔堂(東京、2024年)、個展「幽かなスリル」もりやまていあいとう/えいとう<森山邸>(東京、2024年)ほか
個展「Full Screen」京都 蔦屋書店(京都、2024年)ほか
個展「洞窟で眠る」CANDYBAR Gallery(京都、2024年)、個展「見えないトンネル」haku kyoto(京都、2024年)ほか